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「焼き鳥のんちゃん」と学生が描く、100年企業への道

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特集

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2026.8.18

「焼き鳥のんちゃん」と学生が描く、100年企業への道

学生たちが向かうのは、神戸三宮の路地に店を構える老舗焼き鳥店。焼き鳥の香りに包まれながら、ここでまもなく授業が始まろうとしています。一体この店で、どんな学びが展開されるのでしょうか。

老舗焼き鳥店の集客力アップに挑戦

この授業は、神戸女子大学が神戸商工会議所と連携して実施した、「教養演習Ⅱ」の取り組みです。1963年創業の「焼き鳥のんちゃん」(神戸市中央区)が「100年先まで続くお店になるために」という想いに応えるために、学生が課題解決に挑みました。

学生たちは、焼き鳥店を経営する辻野商店の辻野美千代社長らの思いに耳を傾けながら、「どうすれば、もっとお客さんに来てもらえるのか」と、真剣に議論を重ねてきました。普段の講義室とは異なる“リアルな現場”で、地域の店の未来をともに考える。そんな特別な学びの様子をご紹介します。

実際の企業に協力してもらう責任感の重さを知る

企業の課題に取り組むということは、決して軽いものではありません。お店は日々忙しく、限られた時間の中で学生の挑戦に向き合ってくださることへの感謝を忘れず、約束を守ること、真剣に向き合うこと。担当の心理学部・小沢康英教授は、まずその責任感を丁寧に伝えたといいます。「それでもやりたい」と信念をもち、心理学部心理学科と健康福祉学部社会福祉学科の2・3回生13人が挑戦しました。

小沢教授は、「企業の姿勢を知り、将来自分が何かを動かす立場になったときに、“自分ごと”として考えられる力をつけてほしい」と授業の狙いを語ります。

4月末から実際に店を訪ね、のんちゃんが持つ独特の空気感に触れながら、店の歴史や社長の思い、抱えている課題を丁寧に探っていきました。その中で学生たちは「一過性のバズ」を狙うのではなく、「推し活したくなる店とは何か」を軸にすることに。

3チームに分かれた学生たちは、それぞれが実現の可能性や効果を踏まえ、改善策を練り上げました。これらのアイデアは、実際のお客様に「★」数とコメントで評価してもらい、反応や成果を検証する仕組みもあわせて設計されています。

それでは、学生たちが導き出した具体的なアイデアを紹介します。

ひと目で分かる新・メニュー表

そのうちの一つが、「メニュー表」の制作チームです。従来のメニュー表は情報量が多い一方で、見落としが生まれやすいという課題がありました。そこで学生たちは、ひと目で内容が伝わる構成に再設計。

のんちゃんらしい温かさをどう表現するかにこだわり、手書きの文字や、焼き鳥の写真をAI加工して柔らかいイラスト風に仕上げる工夫を加えました。囲み線はあえてちぎったような形に。背景は黒で統一し、デザイン性も高めました。

制作に携わった心理学科3回生のHさんは、「のんちゃんならではの実家感や温かさを伝えるために、知恵を出し合いました」と振り返ります。授業ではデザイナーから視認性について学ぶ機会もあり、その知識を活かしながら、学生らしさを表すかわいいイラストを添えるなど、細部まで工夫を凝らしています。

“沼化”を目指すセットプラン

2つ目のチームは、注文のしやすさをアップさせるべく、「オススメセットプラン」を考案しました。まずは、「串・唐揚げ・のんちゃんサラダ」を組み合わせた“初心者におすすめ”コース。 2〜3回目の来店の方には、「つくね・オニオンサラダ・やきとり丼」をご提案し、4回目以降のお客様には、“沼メニュー”として「とり肝パテ」を挙げました。

ポイントは「沼化」、つまり常連化への導きです。辻野社長が理念の説明で使ったこの言葉を、学生たちは来店客を店へ深く引き込む具体策へと発展させました。難しい概念を理解し、形にした高い提案力を、吉川祐介氏も評価しました。

このチームはポイントカード制度も検討しましたが、日常業務の中で運用できるかをお店側と議論した結果、今回は見送ることに。「これも現場で学んだ大切な気づきです」と学生たち。「自分たちとは異なる世代の人たちが、何を求めているのか。その立場に立って考えることに苦労しました」と社会福祉学科2回生のHさん・Iさんは振り返ります。

「映え」だけでは伝わらない魅力を発信

3つ目のチームはSNSの運用に挑戦。見てもらう為に“映え”を意識した投稿にすることはもちろん大切でしたが、それだけだと若い世代にしか響かないと思いました。老舗の魅力も伝えながら、幅広い世代の人に『行ってみたい』と思ってもらえるようなInstagramの投稿を考えるのが一番難しかったです。

老舗ならではの伝統や信頼感はそのまま大切にしつつ、これまであまり来店する機会がなかった新しい世代や客層にも興味を持ってもらえるような工夫をすることで、より多くの人が気軽に訪れたくなるお店を目指し、来店者数の増加につなげたいと考えました。

そして、すべての施策が完成し実践の場へ。

来店客からのフィードバックを受け止める授業の最終回

7月17日には、最後の講義として「のんちゃん」でフィードバック授業が行われました。まずは、来店客から寄せられたコメントや「★」数を基に、反応を分析。中間集計の段階で109件もの回答が集まり、温かいコメントや称賛の言葉、改善した方が良い点まで丁寧に記されていました。

特に反応が多かったのは、1枚にまとめたメニュー表で、平均評価は3点満点中2.58と高評価。「カテゴリーごとに整理されていて食べたいものが見つけやすい」、「写真があってイメージしやすい」、「20年通っているが、こんなに見やすいメニューは初めて」といった声が寄せられ、レイアウトの分かりやすさや視覚的な工夫が、常連客・新規客の双方から高く評価されたことが分かりました。

また、学生たちが考案したセットプラン「沼メニュー」も高い評価を受け、平均2.75と最も高い水準。手書きイラストの温かみや、“沼化=常連化”というユニークなコンセプトが「食べてみたくなる」「注文に迷ったときに助かる」と好意的に受け止められ、来店意欲を強く刺激していることがうかがえました。

ぐるっと循環する学びに

辻野社長は、寄せられた109件のコメントを「学生さんへの温かいお手紙のようでした」と語ります。学生がつくったものをお客様が受け取り、その言葉が学生へ、そして店へと戻ってくる。「一方通行ではなく、ぐるっと循環する学びになった」と語り、のんちゃんを思う声にスタッフも励まされたといいます。

さらに、「この経験は学生さんにも店にとってもレガシーになる。学生さんたちとお客様と一緒に価値ある時間をつくれたことが、本当にうれしい」と締めくくりました。

立場を想像するという気づきが、レガシーに

改善点として多く挙がったのは、文字の大きさや色味でした。学生たちは「自分たちには読めても、別の世代には見えにくい」という率直な指摘を受け、立場の違いを想像することの難しさと大切さを実感しました。教室では気づけない“現場のリアル”に触れたことで、ユニバーサルデザインの視点が一気に自分ごととして立ち上がり、「社会に出てから必ず役に立つ経験になると思う」と口をそろえました。

お客様の声を受け取り、改善点に向き合い、次の提案へとつなげていく。そのプロセスは、社会で求められる姿勢そのものなのです。

今回の取り組みは、現場でしか得られない学びが循環する貴重な機会となりました。ここで得た気づきや手応えは、きっと次の世代へ受け継がれ、のんちゃんと学生たち双方の“レガシー”として残っていくでしょう。

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