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「見えないデザインを踏まえたうえで、見えるデザインに繋げていく」須磨キャンパス ラウンジリニューアル

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キャンパス

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2022.10.25

「見えないデザインを踏まえたうえで、見えるデザインに繋げていく」須磨キャンパス ラウンジリニューアル

―「ma vie」デザイナー・葉山達也さん公開インタビュー―

2022年9月にリニューアルオープンした須磨キャンパスのラウンジ「ma vie」(マ ヴィー)。家政学部家政学科の「室内環境学」(担当:砂本文彦教授)を受講する学生たちが、学生の代表として責任をもってラウンジをどのような居場所にしていきたいかを真剣に考え、デザイナーの選定を行い、インテリアやラウンジの名称などについて率直で真剣な議論を重ねながら、完成へと至りました。

この記事では、2022年9月22日の完成披露会で行われた、「ma vie」のデザイナーである、コクヨマーケティング株式会社空間ソリューション本部の葉山達也さんへの公開インタビューの内容をご紹介します。

はじめに~「ma vie」に込めた「想い」

葉山さん(以下葉山):初めに、この空間に「ma vie」(フランス語で私らしさ)という素敵な名前をつけて頂き、ありがとうございます。オンとオフ(大学とプライベート)が交差する場と定義付け、「私らしさ」というコンセプトをどのように表現していくべきなのか。一つのデザインが求心力を持って広がっていく様を、先生や学生たちと一緒に共有出来たことが嬉しかったです。ma vieという素敵な言葉はロゴという形でも表現しています。ロゴは空間の顔です。明朝体が良いのか、それともゴシック体が良いのか。文字の間隔はどのくらい広げた方がコンセプトを表現できるのか。様々なことを考え、形にしました。

またグラフィックの展開として、先程配られたノベルティ(保冷バックやポストカード入りフォトフレーム)やポスターも制作しています。ポスターに関しては弊社にご指名頂いた段階で、頼まれてもいないのに、作ってしまいました。デザインの広がりを皆さまと楽しみたいという想いがあったからです。

本日は皆さまと一緒に「ma vie」という新しい一日を楽しみたいと思います。

砂本先生(以下砂本):まず、「ma vie」について、どのような想いで作られたのかをお話いただきますか。

葉山:ラウンジを形にする「想い」は、僕の想いの前に、学生の「想い」だったり、先生の「想い」だったり、神戸女子大学の「想い」を形で表現することを心がけました。デザインは自分の好みの色や形を見せるのではなく、道筋を作るプロセスだと考えています。今回のお話に当てはめると、この場はどのような場なのか、と考える所から始めました。神戸女子大学の正面入口の横、コンビニ横、授業の間、バスの待合、学生の居場所。仮説として導き出したのが、学生のオンとオフが交差する場。そして、ホームページなどでキャンパスライフなどを見させて頂き、仮説を深堀りしたのが「私らしさ」です。ここを皆さんと一緒に表現していきたいなと思いました。

私が座っているこの場所で床と天井の色を変えています。入口側が短時間滞在エリア、奥側が長時間滞在エリア。また、皆さんが座られている椅子の背もたれを見て下さい。プレゼン時にご説明をさせて頂き、覚えている方もいるかも知れませんが、背が抜けている椅子とファブリックを使っている椅子があります。短時間滞在と長時間滞在のエリア分けを家具でも表現しています。もちろん、利用していく中で、私こっちの方が好きだから長居するかな、というのは全然問題ないと思います。ただ、設計意図としては目的に応じたゾーンの使い分けをしたプランニングをしています。

ただ、短時間サイドの入口側にはソファを置いています。短時間なのに何故ソファなのか。これは正面玄関から見える位置に置くことで。居心地が良さそうなカフェのイメージを想起させ、入りたくなるような、利用したくなるような仕掛けとしてソファを置きました。

他にも様々な場を作っています。カウンター席ではゆりかごのように前後に動く椅子であったり、ビッグテーブルでは体を固めないグラグラ動く椅子。その椅子はレバーを引くとカチっと止まります。恐らく、こういった話は友達同士で伝えて言った方が広まりが早いのかな、と思います。奥には靴を脱いでくつろげる小上がりの畳席。またファミレス席など、様々な場を用意しています。いろいろな使い方があって、いろいろな使い方をしたよっていうのを友達同士で話して、たくさん「私らしさ」を共有して頂けたらいいな、という想いを形にしました。

砂本:葉山さんは、空間や場所の持つ「見えない」課題や個性をきちんと把握して、そこからどう組み立てていって、どういう場所があるとその場所性が生きるのかというのを言葉で説明ができて、それをさらに形にまでしていただけるという点で、非常に説得力があったと思います。その説得力が、学生たちにも伝わり、このプロジェクトに先立って行われた3社のプレゼンテーションの中で、最も高い得票率を得たのではないかと考えます。ここからは、大淵先生にバトンタッチして、インタビューを進めていただきます。

「見えないデザイン」と「見えるデザイン」~デザインの2つの側面~

大淵:私はこのプロジェクトを、6月中旬に学内に貼りだされたポスターで知りました。この度、インタビュー調査や参与観察を専門とする社会学者という専門家の立場で、公開インタビューを担当させていただくことになり、各種資料を拝見させていただきました。そこで非常に感銘を受けたのが、「Transit Project」や「オンとオフの交差する場所」というキャッチコピーでした。社会学は、概念を生み出して、社会現象を説明するという意味で「言葉の力」に敏感な学問なので、とても印象的でした。そこでまず、キャッチコピーなどのイメージをラウンジという空間に落とし込んでいく、概念を空間に落とし込んで具体化する際にどのようなことに気を付けられたのかをお伺いしたいです。
 また、ma vieの正面から見て向かって一番右奥にファミリーレストランの仕様になっている座席がありますが、その壁紙はとても華やかなで印象に残るものが使用されています。この華やかな壁紙は、最初のプレゼンテーションの時からずっとあったと伺いました。空間をデザインする上での個性的な部分とのバランスといいますか、守りの部分とチャレンジの部分のバランスをどのように工夫されたのかを伺えたらなと思います。

葉山:まずもって、皆さん、デザインってなんだと思いますか?よく誤解されているのが、色を決めたり、形を考えるのがデザインと思われがちなんですが、実はそれだけではなくて、デザインは見えるところと見えないところ、見えるデザインと見えないデザインがあるんです。色や形を考える見えるデザインをする前に、見えないデザインが大切と考えています。

見えないデザインって何だと思います?皆さんは薄々気づいているかもしれませんが、僕たちがプレゼンテーションの中で共有したビジョンからコンセプトまでのストーリーです。「この大学にはこういうのがいいんじゃないの」を考える前に、相手の想いをどれだけ引き出せるか、など下準備が大切だと考えています。それが皆さんの想いだったり、例えばホームページを見て、あれ?意外と神戸女子大学は個性的だな、だったり、シンジョガールズ白書で服装を見ていると、CanCanじゃないの?もしかしてViViなの?ViViの雑誌見てみるか、と好きな雰囲気を調べ始めたりします。出来る限り一個一個つぶさに調べていって、観察をするんです。そして集めた情報を状況に重ねて整理していきます。すると整理をしていく中で、問題点や気づきが出てきたりするんですよね。それが、プレゼンの時にお見せした仮説に当たります。この場所はもしかするとオンとオフが重なる場じゃないの?みたいな。そして個性を受け入れる「私らしさ」の場所に結びついていきます。柱は赤、床はフローリング調、こうしたらカッコいいんじゃない?から始めるのではなく、見えないデザインを踏まえたうえで、見えるデザインに繋げていくことが重要だと考えています。

例えば壁紙一枚を選ぶにしても、数学の答えを導き出すのではないけれど、順序だてて考えます。この空間において、ポコッとへこんだあの2つの変な空間。あの場をどう扱うか。一つは以前にもあった人気の小上がりの場の設えを整える。畳なので和テイスト。じゃあもう一つの場は同じようなものを作る?和風?私らしさって画一ではないよね。ソファ席がないから、ファミレス席がいいかな。入口から真正面に見える壁、アイキャッチとして少し際立たせてあげたい。じゃあ柄のクロス使おうかな。このように一歩引いた目線から考えていくと、選択肢が絞られてきます。私はセンスがないから色が決められない、ということを聞きますが、きちんと順序を経ていけば誰でも選べることが出来ます。そして、大外れは絶対しません。デザインが得意な人も、苦手な人も、見えないデザインを意識して、何か選んでもらえたらいいのかなと思っています。

大淵:「見えないデザイン」の中で「問題点」を発見して「仮説」を提案するために、様々な物事をじっくり観察することは、社会学の参与観察とも共通する部分でして、葉山さんがなさっている空間デザインとの共通点を感じました。

「疑問を持つこと、ニュートラルにモノを見ること」~デザインを考える際の心がけ~

大淵:私たちはつい目に見えるものに基づいて考える傾向があって、見えないものから見えるものに落とし込んでいくには、訓練のように日頃から意識して行うことが必要かと思います。葉山さんはどんなことをされているのかお伺いしてもよろしいですか。

葉山:参考になるか分からないですが、基本的に頭の片隅で、デザインってなんだろうと、いつも考えています。いろんな人がいろんな答えを持っているので、デザインってこうだって主張した時に、違うだろうっていう議論も起こりますが、そういう時にでも心がけているのがニュートラル。可能な限り、偏った目線で見ることなく、常に新しい視点で、新しい気付きを得たいと考えています。例えば、何気に使うかっこいい、かわいい、のような形容詞ってすごく曖昧で、何故かっこいいのか、どうしてかわいいのか、前後関係を意識しながらトレンドや文化を感じ取るみたいに、、、。

少し伝わりづらい話をしてしまってますね。言い直します。昔、一休さんっていうマンガがあったんです。一休さんはトンチでいろんな問題を解決していくんですけれど、その中にどちて坊やっていう男の子が出てくるんです。どちて坊やは、何を見てもどちて?どちてなの?ってずっと聞いてくる子どもなんです。一休さんも困り果てて、トンチも効かないくらいにてんてこ舞いされるんですけど、僕の中にもどちて坊やがいるんです。これはどうしてこの形なの?どうしてこういう色なの?って。

物事の背景を考えることが日常的に出来るようになっていくと、自分の提案に説得力が出たり、共感が得らるようなデザインが出来ると考えています。なので、どうして?なぜ?という疑問をいつも持ちながらニュートラルな目でモノを見ようと心がけています。

大淵:すごくよくわかります。つい自分の体験を基づいた「ものの見方」をしてしまうことが多くあると思います。そうではなくて、偏見を持たずに物事をフラットにとらえて、ある現場に行った時に、「これはどうなっているんだろう?」「なんなんだろう?」と、わかるまで観察したり考えたりする。洋服やインテリアなど、何でもいいので、「どうしてこういうデザインなったんだろう?」ということをじっくり考えながら見ていくってことですよね。その他にも、映画や小説だったら、「なんでこの展開になったの?」と考えながら見たり読んだりするとか。身の回りのどのような事柄でもいいので、ニュートラルにフラットに物事をとらえて考え続けることが、いつか何かにつながって、「あの時考えていたあのことが、このデザインに使える!」みたいな、引き出しのひとつになっていく。そういうことをおっしゃりたいのかなと思ったのですがいかがでしょうか。

葉山:はい。

大淵:ありがとうございます。

「100を1にする」~承認を得るプロセスとしてのデザイン~

大淵:ma vieは先ほどもおっしゃっていたように、最初にコンセプトを決めてデザインをされていかれましたが、学生の皆さんの意見を取り入れつつも、取り入れられなかった部分もあるのかなと思います。葉山さんは、以前の打ち合わせの際に、「デザインは承認を得るプロセスである」、つまり、「理解をしていただいた上で進めていく」とおっしゃっていました。ただ、デザインとして通すべきところと、少数派だけれども取り入れていきたい意見と、この意見を取り入れてしまうとデザインが崩れしまうなど…。承認を得ていくといっても、取捨選択が難しいところがありますよね。学生の皆さんたちも、室内環境学の授業の中で話し合いをしてこられたと伺っていますが、合意形成が難しかった経験もされたと思うんです。意見の見極めというか、取捨選択と言いますか、葉山さんはそのあたりをどのようになさったのですか。

葉山:例えば、この空間に200席入れてください、というお話があったとします。物理的に無茶な話ですよね。先程の話と通ずる所があるのですが、どのように200席入れるのかを検討するのではなく、どうして200席必要なのかを考えます。物理的な実証の前に、概念的に考えます。Aさんはこう言っている、Bさんはこう言っている、両方の意見が違っても概念的な所で共通点を探ります。その共通点が合意出来れば、納得感を持ちながら進めることが出来ます。今回でいうと、「オンとオフが交差する場所の私らしさ」の枠組の中で様々な意見を取り入れていく感じです。コンセプトの大きな枠組みの中での話し合い。もし、枠からはみ出るようなことを求められても、枠内に納まるような考えを示してあげる、あなたの意見をコンセプトに沿わすと、このような考え方になりますよ、のように。そこで意見を切るのではなくて、ビジョンの中に入れるような提案をしてあげる。ビジョンからコンセプトのように大きな枠組を共有しながら進めると関わる人たちが楽しくデザインに参加できるのかなと思います。

大淵:話し合いの場で、自分の意見とは異なる意見が出ると、戸惑うことや、どちらの意見を採用するのか、「0か1か」みたいなことが生じると思うんですよね。そうではなくて、コンセプトに基づいての合意形成、コンセプトに立ち返りながら異なる意見をまとめていく、ということですよね。

葉山:デザインって0を1にする仕事と言われることが多いのですが、多分そうではなくて、100を1にする仕事かと思います。いろいろな情報を並べて、整理して、条件を絞りながら100の考えの中で最適な1を導いていく感じです。僕たちは神様ではないので、何も無い0から1は生み出せない。だけど身の回りの中から必要な100を見つけ出し、組み合わせによる最適な答えと思われるものを作ることができる、デザインってそういう作業なのかなと思います。

大淵:ある意味すごく難しいですよね、100を1つにまとめていくのは…。

葉山:初めから1の解だけを見せても共感は得られないと思います。以前にデザインは承認を得ていくプロセスだとお話しました。ビジョンやミッション、パーパスといった1本の大きな芯を定め、コンセプトを通してオリジナリティを模索していく。クライアントの想いを形にしていくプロセスをストーリーに仕立て、共感を呼ぶ一連の流れが大切だと考えています。また、この流れの中心には自分がいることを忘れてはいけません。自分が思い描く、こうであったらいいのにな、を強い心で説得して承認を得ていかなくてはいけません。言葉遣いであったり、服装であったり、髪型であったり、自分の全てがデザインのプロセスの1つとして捉える。自分の軸を持って、真剣に話をすれば、僕の経験上、きっと耳を傾けてくれます。これがデザインの仕事かなと思っています。

おわりに~「自分軸」を見つける場としての「ma vie」

大淵:葉山さんがおっしゃったデザインの仕事を学生の皆さんの日常生活に置き換えて考えてみますと、自分軸を持った上で人に関わることで、承認を得やすくなっていく。もし自分軸がない場合は、あの人の意見もいいな、この人の意見もいいなと、サンドバック状態になってしまうこともあるかもしれないですよね。デザインを考える上では、「見えないデザイン」という共通のコンセプトに立ち返ることが重要ですが、ひとりひとりの人生と考えたときには、誰かにお任せしますという状態で話し合いをするのではなくて、何らかの自分の軸を持った状態で、人に向き合っていくことが大切ということですよね。

葉山:自分の軸を持つって、難しいですよね。僕はレストランでメニューを決める時に、あれも食べたいこれも食べたいって、いつも悩むんです。迷ったあげく、料理を口に入れたら、食べたいのはこれではなかったと思うことがたくさんあります。仕事も同じで、あれがいい、これがいい、と選んでいきますが、形になると、これではなかったかな、ああすればよかったな、と後悔や失敗があります。でもその失敗は人から見ると失敗ではなかったりもします。それはビジョンからコンセプトまで筋の通ったデザインを踏まえているから。形の失敗を失敗でなくす為にも、見えないデザインをしっかり考えた上で進めていくことが良いものを作れるのではないかな、と思います。

大淵:学生の皆さんは室内環境学の授業を通して、葉山さんと一緒に「見えないデザイン」を考えた上での「見えるデザイン」として大学の中の居場所を創る経験をしたと思いますが、「ma vie」というこの場所が、学生の皆さん一人一人の軸づくりの場、「私らしさ」の軸を見つける場になっていったらいいなと思いました。

神戸女子大学 家政学部 家政学科
講師 大淵 裕美

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