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神戸女子大学のWebマガジン「シンジョマグ」

答えのないものに問いを立て、考える。予測困難な現代に求められる力を育む、シンジョの取り組み

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2023.4.24

答えのないものに問いを立て、考える。予測困難な現代に求められる力を育む、シンジョの取り組み

神戸女子大学は現在、従来の授業形態を一新し、新たな学びの構築に取り組んでいます。

AIの発展、通信技術の更なる高速化、仮想現実の進歩、超高齢社会の進展、疫病の蔓延……数え出せばきりがないほど、現代は多くの重大な変化が同時多発的に巻き起こり、先行きの予測が困難な時代となっています。

これからの社会の中で求められる力と大学の役割、神戸女子大学の新たな取り組み、未来を進む若者たちの支え方などについて、学長の栗原 伸公先生に話を聞きました。

Question1. 予測困難な時代における、大学の役割とは?

何が起こるか分からない状況の中でも、「生き抜いていける力」を育む

現代はこれまでの常識では対処できないような変化が次々と起こり、従来の知識・技術ばかりか、培ってきた経験さえ通用しないこともある状況にあります。

明確な答えがない中で、目の前にある情報をさまざまな観点から分析し、「想定外」を常に念頭に置きながら、最適な考えを自ら見つけ出し、臨機応変に実践していく力が求められています。そのような「不確実な世の中を生き抜く力」を養うことが、高等教育機関が担う役割だと考えています。

ただ就職に導くだけでは不十分です。学生が就いた仕事が存在しつづける保証はどこにもありません。近い将来、AIによって代替される可能性も十分にあります。今後起こりうる変化に柔軟に対応し、解決するアイデアを生み出す力を育む必要があります。神戸女子大学は、卒業論文またはそれと同等の演習科目をすべての学科で実施しています。

日常の中から問題を見つけ、仮説を立てて、客観的なデータを収集し分析する。そして、分析して得られた結果から結論を考え、第三者にも伝わりやすい形で発表する。すべての学生に、文学・栄養・心理など自分の興味のあるテーマのもと、自ら問いを立てて何かを検証した論文を発表してもらっています。

就職や資格取得は本学の強みです。しかしそれは、大学以外の場所でもある程度可能なことです。学問を通して、「自ら知識を求め、仮説を立て、検証し考え、判断する力」を養うことこそが、大学という場所が行うべきことだと考えています。

学生たちが「学ぶ楽しさ」に気付き、自分の「好き」を追究できる環境をつくる

学問や研究を「楽しい」と感じることが、深い知識や技術を身につけるための原動力となります。苦しいと感じていれば、それはただの作業となり得られるものも少なくなります。学問を一方的に教えるのではなく、その楽しさに気付けるきっかけ作りが、我々教員の重要な仕事です。そして、楽しさを学生たちに伝えるには、まず教員自らが楽しいと感じる必要があります。だからこそ、先生たちにはしっかり研究に取り組み、「学問を楽しんでいる姿」を大いに学生たちに見せていただいています。

また、本学には11もの多種多様な学科・課程を設置しています。それは、学生たちが自分の好きだと思えるものを追究できる環境をつくりたいからです。元々学びたいと思っていたことがあっても、自分と合っているかは学んでみないと分かりません。

学生一人ひとりが、好きだと思うものをきちんと追究できる環境を整えることが、学問を楽しいと思ってもらうにはまず必要だと考えています。

女性が性差を意識することなく学び、活躍するために

日本が抱える重大な問題のひとつが、ジェンダー・ギャップです。内閣府男女共同参加局のホームページに以下のデータがあります。「世界経済フォーラムが発表した2022年のジェンダー・ギャップ指数の日本の総合順位は、146か国中116位(前回は156か国中120位)と、前回と比べほぼ横ばいの順位となりました。」

(出典:内閣府ホームページ https://www.gender.go.jp/research/weekly_data/01.html

このような状況の中で女子大学が果たすべきことは、「性差を意識することなく行動できる機会」を、女性たちに届けることだと考えています。

女子大学の場合、学生は女性しかいないため、社会から一方的に課せられた性による役割分担を意識することなく、自らの意志のもとリーダーやそのほかのさまざまな役割につく学びを経験できます。その経験が、社会に出た時に性差を意識せず積極的に行動できる力に繋がり、ひいては社会全体に広がっていくと期待しています。

また女子大学は、大学に進学する女性が少なかった時代に、もっと女性が学びを追求できる場をつくるために生み出された背景があります。現在、大学に進学する学生の男女比は昔に比べるとバランスを保てていますが、大学院は圧倒的に男性が多く、女性が学びづらい世の中であることに変わりはありません。

女性というだけでさまざまな機会を奪われてしまう状況が続く限り、女子大学が果たさなければならない役割も存在し続けます。

Question2.神戸女子大学の新たな取り組みについて教えてください

リアルでしか経験できない、大学ならではの学びを追求

2022年度より、「105分授業」「アクティブラーニングの推進」「ICTの積極的な導入」を主な柱とした授業改革を行っています。コロナ禍によって、オンライン・オンデマンドなど新たな授業形態の早急な導入が、教育現場に求められました。本学も新型コロナウイルスの第一波が押し寄せた際、2週間で導入を済ませ、早期に授業を再開しました。

新たな授業形態の導入によるさまざまな試行錯誤を通して、「対面で行うリアルの授業の大切さ」を改めて実感しました。また、「リアルでしか経験できない、大学ならではの学び」を追求する必要性にも直面しました。

クオリティの高い教育関係の動画・講座などがインターネットにあふれ始める中、大学ならではの学びを提供できなければ、私たちが教育機関として存在する意義を社会に示すことはできません。その学びの一つが、アクティブラーニングです。

アクティブラーニングとは、学習者が受け身ではなく、自ら能動的に考え、主体性をもって学ぶように組み立てられた学習方法です。

この1つに「問題解決型学習(PBL)」があり、これには大学での授業の中だけで完結するものもあれば、キャンパスを飛び出して地域の企業と連携して共同で商品開発を行うといったものも含まれます。教育系学部の先生方との勉強会によって、アクティブラーニングの効果的な実施にも、基礎知識の修得が欠かせないことが分かりました。

アクティブラーニングも基礎知識の修得も、議論や調査を学生が納得できるまでとことん実施できなければ、得られる知識や経験も少ないものとなってしまいます。

しかし、従来の90分×15週(半期)の授業時間でそれを叶えることは難しいため、105分×13週(半期)にリニューアルしました。半期を13週とすることで、学生のインターンシップなど授業期間外活動や、教員の研究活動や授業研究の充足にも繋がります。くわえて、ICTの積極的な導入も加速させることが可能です。

現場の様子を授業で伝える際、これまでは現場で撮影してきた写真などをスライドで写してきましたが、ZOOMなどを活用すれば、現場で働く人々の生の声や様子をリアルタイムで学生たちに届けて、意見交換をすることも可能となります。従来の90分授業の中では難しかった取り組みも、105分に拡大することで実現できるようになっています。

リアルとオンラインそれぞれのメリットを活かした、新たな授業づくり

コロナ禍で導入を後押しされた、オンライン・オンデマンド授業によって得られた知見も、しっかり活用していく必要があります。Youtubeライブのようなオンライン授業を行った際、質問を学生たちに投げかけると、リアルの授業よりも多くの意見をチャットで出してくれました。このメリットは、オンラインだけでなくリアルの授業にも生かすことができます。

今までは、質問がある人は挙手をしていましたが、質問をチャットで送ってもらうようにすれば、特に各授業に慣れるまでの間など、もっと積極的に質問や意見を投げかけてもらえるかもしれません。

もし、学生たちの積極性が増した理由が「チャットだから」ではなく、「オンラインだから」だったのであれば、議論を活発化させるために、リアルで実施する前にオンライン上で意見交換をワンクッションはさむことも考えられます。

そのように試行錯誤しながら、最終的にはリアルとオンラインそれぞれのメリットをかけあわせた授業を作ることをめざしています。

あと1年で退任する先生が、ゼロからオンライン授業のやり方を学んでくれた

このような改革や挑戦を行うことを決意したのは、「本学の先生ならやれる」という思いからでした。コロナ禍によって中断された授業をオンラインやオンデマンドで再開するにあたって、先生方には随分と苦労をおかけしました。

あと1年で退任する先生も、「こんな状況だからこそ、学生たちにしっかり学びを伝えなければならない」と、ゼロから勉強してオンライン授業環境を導入してくれました。

本学の教員は、そんな熱意ある先生たちばかりです。

そんな先生方なら、105分授業を最大限活かして、アクティブラーニングやICTを充実させた新たな時代の授業を展開してくれると感じました。予測が困難な時代において、学生たちが育むべき力はこれまでとは違うものとなっています。

であれば、私たち教員の考え方や大学のあり方も変わらなければなりません。105分の授業拡大を通して、これまで以上に質の高い授業の構築に努めています。

Question3.大人は若者たちをどのように支えるべきだと思いますか?

「失敗しても次がある」と思える安心感を与えること

何か困難に直面した際は、できるだけ自分の力で解決してもらうべきだと考えています。しかし、最後の最後は私たちが救いの手を差し伸べるべきですし、SOSのサインを見逃さないためにも、日頃から細やかに気を配る必要があります。

人生の先輩として、「失敗しても次がある」と思える安心感を与えることが重要なのではないでしょうか。失敗なくして成功はありません。あらゆる研究は、失敗の積み重ねで作られています。その失敗のプロセスから何かを学び、継続して粘り強く取り組み続けることが、大きな成功をもたらします。それは、予測困難な状況に臨機応変に対応する力を養うことにも繋がります。

「失敗したらもう終わりだ」と思っていると、チャレンジをすることはできません。チャレンジできなければ、考えを深めるフィードバックも得られません。しかし、自立しつつある若者たちに対して、「何でもしてあげるね」と過保護になりすぎるのもよくないと思っています。それは、その人の可能性を潰してしまうことにも繋がりかねません。

難しくはありますが、1人の人間として各学生の考えや選択を尊重しながら、支える姿勢を常に見せ続けることが重要だと思っています。

学生たちのSOSを見逃さないために

本学では担任制度を敷いており、全学生に対して担任面談を行っています。

もう何年も前のことですが、暑さが厳しくなり半袖の服装をした学生たちが増えはじめたころ、担任面接の際にとある学生の腕がとても細くなってしまっていることに気が付きました。

私は医者でもあるため、その学生にいくつか質問してみると、拒食症の可能性が非常に高いことが判明しました。本人も体調に不安を感じ、ちょうど通院をし始めたところだったようですが、現在行っている治療内容を聞いてみると、どうも拒食症の改善にはつながらないことをしているようでした。

大規模な病院の元院長で、本学に着任された先生に相談し、拒食症治療に造詣の深い病院を紹介していただき、最終的に拒食症を克服することができました。今、その学生は拒食症を抱える人に対して、患者の目線に立ったアドバイスができる管理栄養士になっています。

そのように苦しい状況を乗り越え大きく成長した学生は、本学にたくさんいます。教員一同連携しながら、学生たちのSOSを見逃さないようにフォローしています。

「学生一人ひとりを大切に」の実践

本学の強みのひとつは、「先生たちが学生一人ひとりのことに気を配っている」点です。

たとえばつい先日のことですが、ある先生が定期試験の結果が下がった学生のことを尋ねてきたことがありました。私が担当している授業でも合格点に届かなかったことを伝えると、「最近元気がなさそうで……何か先生の方でも気付くことがあったら教えてください」と仰いました。

このように、先生たちが自分の受けもつ学生の状況を共有し合い、学科全体でフォローをする環境づくりが行われています。

「一人ひとりの学生を大切にする」と言うのは簡単ですが、実践するのはなかなか難しいものです。その難しさを教員一人ひとりが自覚しながら、その実践に努めています。

Question4. 最後に、先生の「やりがい」はなんですか?
送り出した卒業生が幸せな日々を過ごしていること

在学生も卒業生も、健康で幸せであることが一番の喜びです。この思いは、立場は違っても保護者の方々と通ずる部分があると思っています。

就職直後にかなり深刻な悩みを聞いていた卒業生と、10年ぶりに会う機会があり、今は3人の子どもがいることや、育児が落ち着いた後に管理栄養士として復帰したことなどを話してくれました。

「先生、あの時は本当にありがとうございました」と笑顔で言ってもらえた時、とても嬉しく思いました。

教育者が大切にすべきことは、自らの行いが学生たちの幸せな人生づくりに貢献しているかを、しっかり考えることだと思っています。学問とその楽しさを伝えるのも、105分授業も、アクティブラーニングもICTの活用も、この社会を生き抜いていく力を育むのも、全てはそのためです。1人でも多くの「健康で幸せに人生を過ごす人」を、神戸女子大学から送り出していきたいです。

プロフィール

神戸女子大学 学長

家政学部 管理栄養士養成課程 教授

栗原 伸公先生

東京大学医学部医学科卒業、同学大学院医学系研究科にて博士(医学)を取得。神戸女子大学には2004年に家政学部の助教授として赴任し、教授、家政学部長、副学長を経て、学校法人行吉学園の理事に。2019年から神戸女子大学・神戸女子短期大学の学長を務める。大学卒業以来のテーマとして、食事・運動・生活習慣などによる、薬に頼らない疾病予防の研究に取り組んでいる。

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