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【先生、教えてください!】育成、チームづくり…リーダーが持つべき重要な視点とは?

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2023.5.10

【先生、教えてください!】育成、チームづくり…リーダーが持つべき重要な視点とは?

リーダーには、さまざまな役割がもとめられます。
育成、チームの運営・管理、課題解決のための目標設定……多岐にわたる問題を、さまざまな人々を指揮して解決に導く力が必要となります。

また、上層部と現場の板挟みになってしまい、大きな負担を抱えている方も多く居るかと思います。そんな問題を考える際に重要となる視点を、セブン-イレブン・ジャパンで長年多くの店舗を改善に導き、現在はまちづくりや経営コンサルティングを行う企業を経営する、心理学部 心理学科の吉川祐介先生に聞きました。

⼼理学部は、さまざまな専⾨分野のスペシャリストが集結しています。そのなかでも、吉川先生の専⾨はマーケティングなどを扱う商学であり、⼼理学の学びを実社会でどう活かすか、そして、経営の視点を加味することに関わっています。

チームメンバーの努力を促す、関わり方と育成のポイント

Give & Takeが基本ルール

マネジメントの基本的な考え方として、「誘因と貢献」があります。
一般的な言葉で表現すると、「Give & Take」です。

基本的に、組織(企業など)が個人に価値を提供できていれば、個人は組織に対してきちんと貢献してくれます。しかし、提供する価値が、個人の貢献と同等かそれ以上のものとなっている必要があります。チームメンバーが、なかなか成果をあげてくれないのであれば、まずは自分がメンバーに何を提供できているのかを考えなければなりません。人は「自分は損をしている」と考えがちで、利益よりも損失を過大評価してしまう傾向があります。「これだけやってあげているのに、なにも返してくれない」と思ってしまった時は、一度冷静に立ち止まり、「メンバーが求めているものはなにか」「それを提供できているのか」に気を配ることを強く勧めます。

また、リーダーは自分を含めたチームメンバーがもつ価値を客観的に見つめる必要もあります。たとえば、企業がSNSを使った広報を考える場合、上司世代よりも新人世代の方が高いITリテラシーを持っていることが多々あります。そのような状況では、新人世代の知識や経験の方が価値をもつ可能性は十分にあります。自分自身に「経験や知識」というアドバンテージが何事にもあると思っていると、与えるべき「Give」を見過ごしてしまいます。

人は自由を奪われるとやる気をなくす生きもの

心理学の用語に、自由を制限された際に「やりたくない」「ここから出たい」など、自由を取り戻そうとする性質を意味する「心理的リアクタンス」という言葉があります。

「部下の意見や判断を尊重しなければならない」という言葉をよく耳にするのは、「そうしなければ部下の心理的リアクタンスにより組織の破綻につながる力が作用する」という背景があるからです。
心理的リアクタンスを回避するには、選択肢を与えたり、判断や意見を聞いたりするなどして、裁量を与え、自律的に自由意志を表現できるプロセスを用意することが重要です。

チームのリーダーには「自分がやった方が効率よく進められる」というバイアスがかかりがちです。生真面目な人ほどついつい何もかも抱え込むことが多いですが、大抵の場合任せるべきものは権限を渡した方が効率的に進みますし、心理的リアクタンスの回避につながります。

バイアスを自覚した上で、メンバーの意見・判断にしっかり耳を傾けて、選択肢を増やすことが、チームや組織の発展には必要不可欠です。

褒めるだけでなく、目標に合わせた適切なステップアップを

成果に対して評価をすることは、リーダーがチームへと与えられる価値のひとつですが、「褒める」という行為も単純に行ってしまえば、成長を止めてしまうことに繋がります。
もちろん、適切な評価をポジティブに与えることは良いのですが、人は褒められると気持ちがどうしても緩むので、同時に次のステップも用意しておかないと、力が抜け切ったままになってしまいます。
状況・目標にあわせたステップを適切に用意することが、成長に繋がっていきます。

「なにを選ぶのか」ではなく「なぜ選ぶのか」が重要

チームづくりには、「めざすべきもの」を明確にすることが基本です。
たとえば、居酒屋で「ジョッキになみなみ注がれたビールを提供するのか」、「コスト管理をして適量を出すのか」どちらが正しいか考えてみましょう。

なみなみ注がれたビールに満足したお客さんは、リピーターになることが期待できます。一方で適切なコスト管理で収益が上がると、従業員が余裕をもって働ける環境がつくれます。そして従業員満足度が高い店は、お客さんの満足度も高い傾向にあります。お店の経営としてはどちらも正解です。言い換えれば、答えがないということです。

そして、世の中の大半のことには、「これをやれば大丈夫」だという答えはありません。漠然とした考えで答えのない問いから選択肢を選ぶと、行動の指標がないため、中途半端な結果になってしまいがちです。

そのため、「なぜそれを選ぶのか」が重要となります。答えのない問いを多角的な視点から考察し、「自分たちがめざすべきものは何か」というビジョンをはっきりさせることで、選択に説得力が生まれ、中途半端に終わらない明確な行動につながっていきます。

新たな価値を生み出す多様性の重要性と、心理的安全性

「正解が分かっていること」の解決は誰でも簡単にできるため、高い価値を生み出すことはできず、激しい価格競争にも巻き込まれ、チームは疲弊しつづけてしまいます。現代では、あらゆる物事が変化し続ける状況の中から「新たな価値を生み出すこと」が求められるため、さまざまな視点から意見を交換しなければ、価値を創出するアイデアを見つけ出せません。

だからこそ、ビジネスをふくむあらゆるシーンで、多様性を重視することが叫ばれているのです。多様性を保ち、幅広い意見の交換を行うには、「心理的安全性」が必要となります。
「心理的安全性」とは、「チーム内で自由に率直な意見を発言でき、関係性が壊れず、罰せられる心配のない状態」のことです。

「課題解決のために意見を言ったのに、考え方が違うだけで全否定された」などということがあれば、メンバーは自分の意見やノウハウを提供しなくなり、新たなアイデアが生まれづらくなるため、チームに大きな損失を招いてしまいます。非常に難しくはありますが、チームリーダーはそのようなすれ違いを起こさぬように、常に注意を払いながらメンバーの意見に触れる必要があります。

多様性の落とし穴

多様性を保つことは重要ですが、意見の多様性が増せば増すほど、リスクの低い中庸的な答えに議論が集約されてしまうことが多々あります。また、それとは反対に、リスキーな志向が強い人が多ければ、極端な方向へ振り切ってしまうこともあります。

そこに、多様性を重視したチームや議論の落とし穴があります。ただ単に議論の流れがそうなったからと言って、それが本当に自分たちのめざすべきものかどうかは、立ち止まって再度考える必要があります。そもそもなぜ多様な意見を集めるのか、そしてそれで何をめざしたいのか。そのようなビジョンをチームメンバーに共有しておくことで、多様性を重視した議論やチームづくりは、より効果的なものに近づきます。

「板挟み」を乗り越えるために

中間管理職などで陥りがちな、上層部と現場チームの「板挟み」を解消するには、個人的な見解にはなりますが、「現場との良好な関係性」を長期的に築き続けることにあると思います。上層部の考えを直接変えることは、個人の力では不可能に近いです。しかし、自身が指揮するチームの管理方法や、関係性を変えることは可能です。

長期的な目標を持ってチームを管理すると、「今月契約を100件取る」といった短期的な成果は上げづらく、直属の上司にはなかなか評価されません。しかし、経営陣などさらに上位の人々は、長期的な視点で経営を行う立場のため、チームの底上げとなる取り組みはきちんと評価して、フックアップしてくれる可能性があります。

また、現場チームと「誘因と貢献」・「多様性の担保」・「新たな価値の創造」など、長期的な視点を持たねば解決できない難しい課題に取り組むのは、独立や転職など組織を離れる選択を可能とするマネジメント力を養うことに繋がります。長期的な視点で、根気強く現場と真摯に向き合いつづけることこそが、解決の糸口になるのだと思います。

答えのない問いを考える学び

「新たな価値を生み出す力」を育む、神戸女子大学

神戸女子大学では、今回お伝えしたような「価値を生み出す力」を重視した学びが展開されています。
たとえば心理学部 心理学科で私が担当する授業では、過去に神戸で名物として親しまれたカレーの復刻版の広報プランや、こども食堂における悩み事の解決策の考案など、自分で問いを見つけ出し、自分なりの答えや価値を導きだす力を育む学びを展開しています。

学生たちがチームを組んで、自分たちが培ってきた心理学の知識を、現実の中でどのように活かし、ビジネス的な課題をふくめて解決するかを、私の経営学的な知見を伝えながら、考えてもらっています。
今回お伝えした「多様性」「心理的安全性」といった問題に直面しながらも、答えのない問いに日々真剣に取り組む学生たちの姿を見て、「先行きの見えない社会だけれども、この若者たちがいるからきっと大丈夫だ」と勇気を与えてもらっています。

プロフィール
心理学部 心理学科
吉川 祐介先生

大阪市立大学 経済学部 経済学科卒業後、株式会社セブン-イレブン・ジャパンに就職。店長を経て、各店舗の経営者を支援する職務に就き、多くの経営不振に苦しむ店舗の経営改善を手がけた。その後、神戸大学大学院 経営学研究科で経営理論に磨きをかけ、大学院修了後は、まちづくりや経営コンサルティングを行う個人事業を開業。現在は、株式会社けいえいまちの代表取締役として活躍。

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