特集
3768
2023.1.6
衣・食・住にまつわる幅広い学びを通じて、さまざまな人びとの暮らしを科学・デザインする家政学科。ファッション、インテリア、金融など多様な将来像が描けるなか、小さい頃からの夢であった家庭科教員への道を選んだ学生に、学科での学びや就職までの道のりについて伺いました。 いつも味方でいてくれた先生に憧れ、シンジョの家政学科へ ――入学時から先生を目指していたそうですね。何かきっかけがあったのですか。 高校生の頃、ある出来事が原因で少し落ち込んでしまう時期があったんですが、そのときに支えてくれたのが担任の先生でした。私のことを信じ、常に味方でいてくれて、とても心強かったことを覚えています。その先生は、学校行事でいつも一番に動いて生徒を引っ張ってくれる存在で、クラスに良い雰囲気をつくってくれていました。この先生との出会いが、私が教師という道を考え始めたきっかけですね。生徒のことを一番に考えて行動する姿は、今でも目標とする教師像のひとつです。 ――いろいろな教科があるなかで、家庭科を選んだのはなぜですか? 小学校で家庭科クラブに入るほど、昔から裁縫やファッションが好きだったので、家庭科の教師になればずっと好きなことを学び続けられると思いました。あと、家庭科では正解がひとつではないことが多く、いろいろな可能性が開かれているところも魅力ですね。 ――シンジョに進学したのは、家庭科教員の合格実績の高さが決め手ですか? そうですね。また、同じ夢をもつ仲間が多くいる環境も魅力的でした。オープンキャンパスに参加したとき、先生方や在校生の先輩たちの雰囲気が自分に合っているなと感じたことも、シンジョに入学することを決めた理由の一つです。 「地域学習」の授業で子どもたちと自分の成長を実感 ――先生を目指す学びのなかで特に印象に残っている科目はありますか? 学校で募集しているボランティア活動のうち、15個を選び参加する「地域学習」の授業が印象的でした。私は「将来、生徒を指導するときに役立つ経験がしたい」と思い、子どもと関わる活動を中心に参加しました。たとえば、児童館で子どもたちに勉強を教えたり、マラソン大会の準備を手伝ったりしたこともあります。また、大阪府の小学校の教室を借りて運営している子ども食堂のボランティアには、今でも月に1、2回参加しています。 ――子ども食堂では、どのような活動をされていたのですか? ごはんの配膳はもちろん、子どもたちに勉強を教えたり一緒に遊んだり。あとは、保護者の方のお話を聞くこともあります。悩みを抱えている場合には、なるべく寄り添ってお話を聞くようにしています。少しは気持ちを和らげることができていれば嬉しいですね。毎月参加してくれる子もいて、今ではすっかり顔なじみになりました。喜んでくれる子どもたちの表情を見ると、力が湧いてきます! ――実際に地域学習の現場に出たことで得られた学びはありましたか? はい。たとえば子どもたちが喧嘩をしたとき、以前はただ行動を止めるだけしかできませんでした。でも今は当事者同士の意見を聞いて、話し合いのなかで解決策を探るようにしています。子どもたち自身もしっかりと考える機会をもてるようになっていますし、子どもたちと一緒に自分自身の成長も感じます。 ――一つひとつの経験が教員の夢につながっているんですね。他に印象に残っている授業はありますか? 子どもたちとの関わり方を学ぶ「教育相談」が印象に残っています。「生徒が応えやすい発問の仕方」など、実践的な手法について学生が主体となって考える授業で、楽しんで受けられました。<発問:授業中に教師が行う意図的な問いかけ(指導言)のこと>教育実習では、グループワークを取り入れたり「ファッションの持続可能性」をテーマに絵を描いてもらったりなど、授業で学んだ内容を活用できたと思います。 ――ファッションの持続可能性とはどんなことですか? たとえば、ファッション業界では大量生産、大量消費、大量廃棄が当たり前の時代があったんですが、最近では限られた資源を有効に使おうという意識が強くなってきていて。そのために自分たちにできることは何かを考えてもらうんです。環境にやさしい素材を使うとか、着なくなった服をリサイクルするとか、子どもたちも積極的に授業に参加してくれて、「楽しかった!」という言葉を聞くことができました。これから実際に教壇に立ってからも、生徒が楽しいと思える授業を行いたいです。 さまざまな視点で「暮らし」を学ぶ家政学科 少子高齢化や環境問題など社会を取り巻く課題を知り、人びとが安心で快適な暮らしを送れるよう、知識と技術を深める幅広い学びが受けられる。インテリアコーディネーターやファイナンシャル・プランナー、中学・高校教諭一種免許状など、多彩な資格が取得できるのも魅力! 詳しくはコチラ! 友人や先生に支えられ、たどり着いた夢のスタートライン ――教員採用試験合格に向けてどのように勉強していましたか? 通学時間をよく利用していました。教員採用試験についてまとめたYouTube動画や、試験対策ができるアプリを活用し、授業や課題制作など忙しいなかでも「通学時間だけは勉強する!」と決めて、隙間時間を効率良く活用できるよう意識して努力を続け、最終的に神戸市と大阪府の両方に合格することができました。 ――大変だったことは何ですか? 採用試験対策を始めた頃は、とにかく面接が苦手でした。質問をされても頭が真っ白になって上手く答えられず、不安でいっぱいになったことがあります。でも、教師なるために4年間一生懸命勉強してきたので、諦めたいと思うことはなかったですね。家政学科には不安な気持ちを分かち合える友だちもいて、お互いに励まし合うことができたので、最後まで頑張ることができました。 ――大学のサポートではどのようなものを利用しましたか? 教職支援センターの方にもたくさん助けていただきました。気軽に相談しに行ける環境があって良かったです。教員採用試験に向けて週2、3回ほど面接練習をしていただいたことで、場慣れすることができて、自分の考えを話せるようになりました。それだけではなく、話し方や声の出し方など、相手にわかりやすく伝えるための基本的な方法から、より印象的に伝えるための発言の仕方など、自分では気づけなかった点を指摘していただき、本当にありがたかったです。教職支援センターのサポートがあったからこそ、合格できたと言っても過言ではないです! ――実技試験対策はどのようにされましたか? 家政学科は教職支援が手厚く、模擬授業の準備は1回生のときから行っていました。指導案の作成や模擬授業の練習を多く重ねてきたため、試験でも緊張せずに力を発揮できたと思います。それから、裁縫の実技試験ではミニポーチを作ることになっていたんですが、私は昔から裁縫が好きだったので得意だと思っていたんです。でも実際は自己流になっている部分がたくさんあって、試験ではそこが指摘されるかもしれないと分かりました。だから試験の2週間前くらいからは、担当の先生にご指導いただきながら毎日練習をしていました。そのおかげで基礎から見直すことができ、自信につながりましたね。 ――最後に、同じように先生を目指す受験生にメッセージをお願いします! 受験勉強や大学に入ってから、たぶん社会に出てからも「つらい」「しんどい」と思うときは誰でもあると思います。そういうときは無理をせず、たまには思いっきり休んでみてください。自分を追い込みすぎず、リラックスして友だちと支え合いながら、諦めずに頑張っていれば報われるときが来ると思います。 2022年11月取材 ※取材時4回生
キャンパス
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2022.12.1
高校卒業後、ファッション系専門学校へ進学するつもりがシンジョへ入学したことをきっかけで、4年間で人生がガラリと変わったという、家政学科4回生のNさんにインタビュー。後編は3回生から現在、そして未来へと続くお話です。<前編をまだお読みでない方はコチラ> 海外留学をしてみたら、多様性に触れて人生観が変わった 3回生になる頃には通常のキャンパスライフに戻り、卒業へ向けて順調に学びを進めていたNさん。4回生の8月には念願だった海外留学を果たします。 「高校時代、留学のチャンスがあったのに挑戦しなかったことをずっと後悔していて、大学に行くなら今度こそ実現できればと思っていました。語学を学ぶだけではなく、海外の人のマインドにも触れてみたくて。ファッションも日本と全然違って弾けている印象があったので、実際に見て感じてみたかったんです。本当は2回生の時に参加するはずがコロナ禍で中止になってしまい、余計行きたい気持ちが高まっていたので、4回生で留学できると知った時は即決しました。」 シンジョは学部を問わず全学生が対象となる海外留学プログラムが多くあるため、誰でも海外留学を経験できます。Nさんが参加したのは、ハワイ大学での1か月間の英語研修。研修中はハワイ大学の近くにある「神戸女子大学ハワイ・セミナーハウス」に滞在し、職員のサポートを受けながら留学生みんなで共同生活を送れる安全性も魅力です。 写真 左からNさん、セミナーハウスでルームメイトだった英語英米文学科4回生Sさん 「留学中、午前中は英語のスピーキングの授業、午後はフリータイムの毎日でした。シンジョの留学生仲間に加えて、韓国からの留学生や、交流会で知り合ったハワイ大学の学生と一緒にいろんな経験をしました。ランチの後そのまま近くのビーチで遊んだり、ドライブに行ったり。とにかく毎日予定を詰め込んでいましたね。」 現地の学生と仲良くなると、あっという間に交流の輪が拡大。日本に興味があるという人も多く、上手に英語が話せなくても、優しく積極的にコミュニケーションをとってくれたそう。こうして同世代に限らずさまざまな人と出会えたことが、Nさんのその後に大きな影響を与えました。 「例えば、ハワイ大学を卒業してアクション俳優になった人や、私たちよりずっと年上なのに大学生として勉強を始めた人、4年にこだわらず納得いくまで大学に残って学び続けている人など、いろんな生き方の人に話を聞けました。日本の場合、4年間で卒業したら、企業に就職するのが一般的ですよね。でも、そうじゃない進路もたくさんあるんだなって……。」 そして、Nさんは大きな決断をします。 「留学前は普通に就職活動をしていましたし、ちょっと違う進路をとるにしても、大学院進学を考えていたくらい。ほんの少しだけ海外で生活してみたいという気持ちもありましたが、あまり現実的ではないという自覚はあったので黙っていたんです。でも、世界にはいろんな生き方の人がいると知って、『だったら私ももっとチャレンジしたい!』と。大学卒業後は、ワーキングホリデーを利用してイギリスへ行くと決めました。」 現地で英語を学びながら、ファッションをはじめとしたヨーロッパ独自の文化に触れ、感性を磨きたいというNさん。帰国後は経験を活かし、デザイナーか、スタイリストか、はたまたブランドプロデューサーか。何らかの形で、ファッションの世界で活躍することが目標です。 未来の自分へ贈りたい、最幸のウエディングドレス作り 大きな夢を抱き、現在Nさんは卒業制作の真っ最中。被服製作がテーマの十一(じゅういち)先生のゼミに所属し、ドレス作りに打ち込んでいます。 「十一先生のゼミは、思い思いのドレスを作り上げることが目標。私は純白のウエディングドレスに挑戦していて、マーメイドラインで裾フレアがポイント。派手な装飾はなくシンプルに、総レースで上品に魅せるドレスを目指しています。これまで授業の課題でジャケットやスカートを製作したことはありましたが、こうしてデザイン、型紙作り、生地の選択、縫製も、全て一から自分の手で行うのは今回が初めて。大変ですが、やりたいように自由に製作できるのはとても楽しいです。」 十一先生は、自分の好きなものづくりに生き生きと取り組むゼミ生たちを温かく見守りつつ、困った時には相談に乗り、的確なアドバイスをしてくださる、とても心強い存在です。 「ドレスが完成したら大切にしまっておいて、いつか自分の結婚式で着るのが夢です。その姿を、シンジョに進学するよう導いてくれた両親や親戚、そして恩師である十一先生に見ていただけたら幸せですね。」 十一先生とNさん シンジョで過ごした4年間で世界が拓け、たくさんの夢を見つけたNさん。「今となっては、本当にシンジョに進学して良かったと思っています。十分な時間と恵まれた環境の中で、いろんな学びに触れられたこと、いろんな人と出会えたこと、留学をはじめいろんな経験ができたこと、すべてシンジョじゃないとできなかったことなので」と、笑顔で力強く語ってくれました。
キャンパス
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2022.12.1
今回は、ファッション系専門学校へ進学するはずがシンジョへ入学したことをきっかけに、思ってもみなかったことだらけの4年間で人生がガラリと変わったという、家政学科4回生のNさんにインタビュー。まずは前編、入学前から2回生の頃までを振り返ります。 専門学校から大学へ進路を変えたら、視野が大きく広がった 小学生の頃から自分で着たい服を選んで楽しむファッション大好き女子だったというNさん。高校卒業後は服のデザインや製作を学べる専門学校への進学を決めていました。ところが、両親や親戚のすすめによって、最終的には大学進学の道へ。 「正直、大学よりも専門学校のほうが好きなことだけに時間をかけて学べると思っていたので、あまり乗り気ではありませんでした」とNさん。 「それでも、入学予定だった専門学校が3年制なのに対して、シンジョの家政学科は4年制。詰め込みの3年間よりも1年余裕があると考えれば、その時間を有効に使っていろんなことができるのかなと。なるべくポジティブに気持ちを切り替えました。」 1~2回生は一般教養と並行して、家政学の基礎を幅広く学ぶカリキュラム。2回生の終わりにコース選択を行うため、それまでは被服デザイン科学、住空間、生活マネジメントの3コースに関わる授業をまんべんなく受講できるのです。 「私はもちろん被服一択でしたが、それでも他のコースに関係する授業が意外と面白くて。インテリアの授業は自分の部屋作りの参考になるし、経済の授業は将来必ず役立つような家計や投資のことを学べるし。どの授業も興味深く、『視野が広がるとはこういうことか!』 と実感しましたね。それに、クラスメイトみんなそれぞれ興味のあることが違うので、一緒に話しているだけでもいろんな価値観に触れられて刺激になりました。」 コロナで日常が閉ざされたら、趣味の世界が広がった こうして楽しいキャンパスライフを送っていた2回生の春。新型コロナウイルス感染拡大のため、授業はほぼ全てオンラインになりました。 「画面越しだとどうしても伝わりづらい部分が多く、最初の頃はかなり消極的になっていました」というNさんですが、すぐに持ち前のポジティブ精神を発揮。 「通学もアルバイトもなくなって余裕ができたので、それまで時間を割いてこなかった自炊を頑張ってみたり、雑誌をたくさん集めて流行りのファッションデザインやコーディネートを研究したり。誰かに直接教わるのが難しい状況で、自分ひとりでも調べて学んで、何かスキルアップできることはないか模索していました。」 その中でも、一番ハマったのがインスタグラム。毎日の手作りごはんやファッションコーデ、たまに友達と出かけた時に撮った写真などに加え、例えば推しのアイドルグループが雑誌の表紙を飾ったら映えるように撮影してアップするなど、自分の趣味や好きなものを積極的に発信しました。 友人との外食のワンシーンの投稿 「写真の撮り方やオシャレな加工方法、効果的なハッシュタグの付け方は、独学でマスターしました。はじめはけっこう苦戦しましたが、慣れてくると自分が『こう見せたい!』と思う通りにできるようになって、どんどん楽しくなりました。 Nさんのインスタ力がアップすればするほど、フォロワーも増加。コロナ禍で家に閉じこもりがちになった一方で、特に同じアイドルを推すファン同士のネットワークがどんどん広がったといいます。 「年齢も住んでいる場所も関係なく、たくさんの友達ができました。少しずつ外出できるようになってからは、フォロワーの人と実際に会って話してみたり、そこから一緒にライブや旅行に行ったり、東京に遠征した時は現地のフォロワーの人の家に泊めてもらったことも。普通に生活していたら絶対に出会うことがなかった人たちとの輪が広がったのは、ほんとにインスタさまさまです。」 後編へ続く。
キャンパス
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2022.10.25
―「ma vie」デザイナー・葉山達也さん公開インタビュー― 2022年9月にリニューアルオープンした須磨キャンパスのラウンジ「ma vie」(マ ヴィー)。家政学部家政学科の「室内環境学」(担当:砂本文彦教授)を受講する学生たちが、学生の代表として責任をもってラウンジをどのような居場所にしていきたいかを真剣に考え、デザイナーの選定を行い、インテリアやラウンジの名称などについて率直で真剣な議論を重ねながら、完成へと至りました。 この記事では、2022年9月22日の完成披露会で行われた、「ma vie」のデザイナーである、コクヨマーケティング株式会社空間ソリューション本部の葉山達也さんへの公開インタビューの内容をご紹介します。 はじめに~「ma vie」に込めた「想い」 葉山さん(以下葉山):初めに、この空間に「ma vie」(フランス語で私らしさ)という素敵な名前をつけて頂き、ありがとうございます。オンとオフ(大学とプライベート)が交差する場と定義付け、「私らしさ」というコンセプトをどのように表現していくべきなのか。一つのデザインが求心力を持って広がっていく様を、先生や学生たちと一緒に共有出来たことが嬉しかったです。ma vieという素敵な言葉はロゴという形でも表現しています。ロゴは空間の顔です。明朝体が良いのか、それともゴシック体が良いのか。文字の間隔はどのくらい広げた方がコンセプトを表現できるのか。様々なことを考え、形にしました。 またグラフィックの展開として、先程配られたノベルティ(保冷バックやポストカード入りフォトフレーム)やポスターも制作しています。ポスターに関しては弊社にご指名頂いた段階で、頼まれてもいないのに、作ってしまいました。デザインの広がりを皆さまと楽しみたいという想いがあったからです。 本日は皆さまと一緒に「ma vie」という新しい一日を楽しみたいと思います。 砂本先生(以下砂本):まず、「ma vie」について、どのような想いで作られたのかをお話いただきますか。 葉山:ラウンジを形にする「想い」は、僕の想いの前に、学生の「想い」だったり、先生の「想い」だったり、神戸女子大学の「想い」を形で表現することを心がけました。デザインは自分の好みの色や形を見せるのではなく、道筋を作るプロセスだと考えています。今回のお話に当てはめると、この場はどのような場なのか、と考える所から始めました。神戸女子大学の正面入口の横、コンビニ横、授業の間、バスの待合、学生の居場所。仮説として導き出したのが、学生のオンとオフが交差する場。そして、ホームページなどでキャンパスライフなどを見させて頂き、仮説を深堀りしたのが「私らしさ」です。ここを皆さんと一緒に表現していきたいなと思いました。 私が座っているこの場所で床と天井の色を変えています。入口側が短時間滞在エリア、奥側が長時間滞在エリア。また、皆さんが座られている椅子の背もたれを見て下さい。プレゼン時にご説明をさせて頂き、覚えている方もいるかも知れませんが、背が抜けている椅子とファブリックを使っている椅子があります。短時間滞在と長時間滞在のエリア分けを家具でも表現しています。もちろん、利用していく中で、私こっちの方が好きだから長居するかな、というのは全然問題ないと思います。ただ、設計意図としては目的に応じたゾーンの使い分けをしたプランニングをしています。 ただ、短時間サイドの入口側にはソファを置いています。短時間なのに何故ソファなのか。これは正面玄関から見える位置に置くことで。居心地が良さそうなカフェのイメージを想起させ、入りたくなるような、利用したくなるような仕掛けとしてソファを置きました。 他にも様々な場を作っています。カウンター席ではゆりかごのように前後に動く椅子であったり、ビッグテーブルでは体を固めないグラグラ動く椅子。その椅子はレバーを引くとカチっと止まります。恐らく、こういった話は友達同士で伝えて言った方が広まりが早いのかな、と思います。奥には靴を脱いでくつろげる小上がりの畳席。またファミレス席など、様々な場を用意しています。いろいろな使い方があって、いろいろな使い方をしたよっていうのを友達同士で話して、たくさん「私らしさ」を共有して頂けたらいいな、という想いを形にしました。 砂本:葉山さんは、空間や場所の持つ「見えない」課題や個性をきちんと把握して、そこからどう組み立てていって、どういう場所があるとその場所性が生きるのかというのを言葉で説明ができて、それをさらに形にまでしていただけるという点で、非常に説得力があったと思います。その説得力が、学生たちにも伝わり、このプロジェクトに先立って行われた3社のプレゼンテーションの中で、最も高い得票率を得たのではないかと考えます。ここからは、大淵先生にバトンタッチして、インタビューを進めていただきます。 「見えないデザイン」と「見えるデザイン」~デザインの2つの側面~ 大淵:私はこのプロジェクトを、6月中旬に学内に貼りだされたポスターで知りました。この度、インタビュー調査や参与観察を専門とする社会学者という専門家の立場で、公開インタビューを担当させていただくことになり、各種資料を拝見させていただきました。そこで非常に感銘を受けたのが、「Transit Project」や「オンとオフの交差する場所」というキャッチコピーでした。社会学は、概念を生み出して、社会現象を説明するという意味で「言葉の力」に敏感な学問なので、とても印象的でした。そこでまず、キャッチコピーなどのイメージをラウンジという空間に落とし込んでいく、概念を空間に落とし込んで具体化する際にどのようなことに気を付けられたのかをお伺いしたいです。 また、ma vieの正面から見て向かって一番右奥にファミリーレストランの仕様になっている座席がありますが、その壁紙はとても華やかなで印象に残るものが使用されています。この華やかな壁紙は、最初のプレゼンテーションの時からずっとあったと伺いました。空間をデザインする上での個性的な部分とのバランスといいますか、守りの部分とチャレンジの部分のバランスをどのように工夫されたのかを伺えたらなと思います。 葉山:まずもって、皆さん、デザインってなんだと思いますか?よく誤解されているのが、色を決めたり、形を考えるのがデザインと思われがちなんですが、実はそれだけではなくて、デザインは見えるところと見えないところ、見えるデザインと見えないデザインがあるんです。色や形を考える見えるデザインをする前に、見えないデザインが大切と考えています。 見えないデザインって何だと思います?皆さんは薄々気づいているかもしれませんが、僕たちがプレゼンテーションの中で共有したビジョンからコンセプトまでのストーリーです。「この大学にはこういうのがいいんじゃないの」を考える前に、相手の想いをどれだけ引き出せるか、など下準備が大切だと考えています。それが皆さんの想いだったり、例えばホームページを見て、あれ?意外と神戸女子大学は個性的だな、だったり、シンジョガールズ白書で服装を見ていると、CanCanじゃないの?もしかしてViViなの?ViViの雑誌見てみるか、と好きな雰囲気を調べ始めたりします。出来る限り一個一個つぶさに調べていって、観察をするんです。そして集めた情報を状況に重ねて整理していきます。すると整理をしていく中で、問題点や気づきが出てきたりするんですよね。それが、プレゼンの時にお見せした仮説に当たります。この場所はもしかするとオンとオフが重なる場じゃないの?みたいな。そして個性を受け入れる「私らしさ」の場所に結びついていきます。柱は赤、床はフローリング調、こうしたらカッコいいんじゃない?から始めるのではなく、見えないデザインを踏まえたうえで、見えるデザインに繋げていくことが重要だと考えています。 例えば壁紙一枚を選ぶにしても、数学の答えを導き出すのではないけれど、順序だてて考えます。この空間において、ポコッとへこんだあの2つの変な空間。あの場をどう扱うか。一つは以前にもあった人気の小上がりの場の設えを整える。畳なので和テイスト。じゃあもう一つの場は同じようなものを作る?和風?私らしさって画一ではないよね。ソファ席がないから、ファミレス席がいいかな。入口から真正面に見える壁、アイキャッチとして少し際立たせてあげたい。じゃあ柄のクロス使おうかな。このように一歩引いた目線から考えていくと、選択肢が絞られてきます。私はセンスがないから色が決められない、ということを聞きますが、きちんと順序を経ていけば誰でも選べることが出来ます。そして、大外れは絶対しません。デザインが得意な人も、苦手な人も、見えないデザインを意識して、何か選んでもらえたらいいのかなと思っています。 大淵:「見えないデザイン」の中で「問題点」を発見して「仮説」を提案するために、様々な物事をじっくり観察することは、社会学の参与観察とも共通する部分でして、葉山さんがなさっている空間デザインとの共通点を感じました。 「疑問を持つこと、ニュートラルにモノを見ること」~デザインを考える際の心がけ~ 大淵:私たちはつい目に見えるものに基づいて考える傾向があって、見えないものから見えるものに落とし込んでいくには、訓練のように日頃から意識して行うことが必要かと思います。葉山さんはどんなことをされているのかお伺いしてもよろしいですか。 葉山:参考になるか分からないですが、基本的に頭の片隅で、デザインってなんだろうと、いつも考えています。いろんな人がいろんな答えを持っているので、デザインってこうだって主張した時に、違うだろうっていう議論も起こりますが、そういう時にでも心がけているのがニュートラル。可能な限り、偏った目線で見ることなく、常に新しい視点で、新しい気付きを得たいと考えています。例えば、何気に使うかっこいい、かわいい、のような形容詞ってすごく曖昧で、何故かっこいいのか、どうしてかわいいのか、前後関係を意識しながらトレンドや文化を感じ取るみたいに、、、。 少し伝わりづらい話をしてしまってますね。言い直します。昔、一休さんっていうマンガがあったんです。一休さんはトンチでいろんな問題を解決していくんですけれど、その中にどちて坊やっていう男の子が出てくるんです。どちて坊やは、何を見てもどちて?どちてなの?ってずっと聞いてくる子どもなんです。一休さんも困り果てて、トンチも効かないくらいにてんてこ舞いされるんですけど、僕の中にもどちて坊やがいるんです。これはどうしてこの形なの?どうしてこういう色なの?って。 物事の背景を考えることが日常的に出来るようになっていくと、自分の提案に説得力が出たり、共感が得らるようなデザインが出来ると考えています。なので、どうして?なぜ?という疑問をいつも持ちながらニュートラルな目でモノを見ようと心がけています。 大淵:すごくよくわかります。つい自分の体験を基づいた「ものの見方」をしてしまうことが多くあると思います。そうではなくて、偏見を持たずに物事をフラットにとらえて、ある現場に行った時に、「これはどうなっているんだろう?」「なんなんだろう?」と、わかるまで観察したり考えたりする。洋服やインテリアなど、何でもいいので、「どうしてこういうデザインなったんだろう?」ということをじっくり考えながら見ていくってことですよね。その他にも、映画や小説だったら、「なんでこの展開になったの?」と考えながら見たり読んだりするとか。身の回りのどのような事柄でもいいので、ニュートラルにフラットに物事をとらえて考え続けることが、いつか何かにつながって、「あの時考えていたあのことが、このデザインに使える!」みたいな、引き出しのひとつになっていく。そういうことをおっしゃりたいのかなと思ったのですがいかがでしょうか。 葉山:はい。 大淵:ありがとうございます。 「100を1にする」~承認を得るプロセスとしてのデザイン~ 大淵:ma vieは先ほどもおっしゃっていたように、最初にコンセプトを決めてデザインをされていかれましたが、学生の皆さんの意見を取り入れつつも、取り入れられなかった部分もあるのかなと思います。葉山さんは、以前の打ち合わせの際に、「デザインは承認を得るプロセスである」、つまり、「理解をしていただいた上で進めていく」とおっしゃっていました。ただ、デザインとして通すべきところと、少数派だけれども取り入れていきたい意見と、この意見を取り入れてしまうとデザインが崩れしまうなど…。承認を得ていくといっても、取捨選択が難しいところがありますよね。学生の皆さんたちも、室内環境学の授業の中で話し合いをしてこられたと伺っていますが、合意形成が難しかった経験もされたと思うんです。意見の見極めというか、取捨選択と言いますか、葉山さんはそのあたりをどのようになさったのですか。 葉山:例えば、この空間に200席入れてください、というお話があったとします。物理的に無茶な話ですよね。先程の話と通ずる所があるのですが、どのように200席入れるのかを検討するのではなく、どうして200席必要なのかを考えます。物理的な実証の前に、概念的に考えます。Aさんはこう言っている、Bさんはこう言っている、両方の意見が違っても概念的な所で共通点を探ります。その共通点が合意出来れば、納得感を持ちながら進めることが出来ます。今回でいうと、「オンとオフが交差する場所の私らしさ」の枠組の中で様々な意見を取り入れていく感じです。コンセプトの大きな枠組みの中での話し合い。もし、枠からはみ出るようなことを求められても、枠内に納まるような考えを示してあげる、あなたの意見をコンセプトに沿わすと、このような考え方になりますよ、のように。そこで意見を切るのではなくて、ビジョンの中に入れるような提案をしてあげる。ビジョンからコンセプトのように大きな枠組を共有しながら進めると関わる人たちが楽しくデザインに参加できるのかなと思います。 大淵:話し合いの場で、自分の意見とは異なる意見が出ると、戸惑うことや、どちらの意見を採用するのか、「0か1か」みたいなことが生じると思うんですよね。そうではなくて、コンセプトに基づいての合意形成、コンセプトに立ち返りながら異なる意見をまとめていく、ということですよね。 葉山:デザインって0を1にする仕事と言われることが多いのですが、多分そうではなくて、100を1にする仕事かと思います。いろいろな情報を並べて、整理して、条件を絞りながら100の考えの中で最適な1を導いていく感じです。僕たちは神様ではないので、何も無い0から1は生み出せない。だけど身の回りの中から必要な100を見つけ出し、組み合わせによる最適な答えと思われるものを作ることができる、デザインってそういう作業なのかなと思います。 大淵:ある意味すごく難しいですよね、100を1つにまとめていくのは…。 葉山:初めから1の解だけを見せても共感は得られないと思います。以前にデザインは承認を得ていくプロセスだとお話しました。ビジョンやミッション、パーパスといった1本の大きな芯を定め、コンセプトを通してオリジナリティを模索していく。クライアントの想いを形にしていくプロセスをストーリーに仕立て、共感を呼ぶ一連の流れが大切だと考えています。また、この流れの中心には自分がいることを忘れてはいけません。自分が思い描く、こうであったらいいのにな、を強い心で説得して承認を得ていかなくてはいけません。言葉遣いであったり、服装であったり、髪型であったり、自分の全てがデザインのプロセスの1つとして捉える。自分の軸を持って、真剣に話をすれば、僕の経験上、きっと耳を傾けてくれます。これがデザインの仕事かなと思っています。 おわりに~「自分軸」を見つける場としての「ma vie」 大淵:葉山さんがおっしゃったデザインの仕事を学生の皆さんの日常生活に置き換えて考えてみますと、自分軸を持った上で人に関わることで、承認を得やすくなっていく。もし自分軸がない場合は、あの人の意見もいいな、この人の意見もいいなと、サンドバック状態になってしまうこともあるかもしれないですよね。デザインを考える上では、「見えないデザイン」という共通のコンセプトに立ち返ることが重要ですが、ひとりひとりの人生と考えたときには、誰かにお任せしますという状態で話し合いをするのではなくて、何らかの自分の軸を持った状態で、人に向き合っていくことが大切ということですよね。 葉山:自分の軸を持つって、難しいですよね。僕はレストランでメニューを決める時に、あれも食べたいこれも食べたいって、いつも悩むんです。迷ったあげく、料理を口に入れたら、食べたいのはこれではなかったと思うことがたくさんあります。仕事も同じで、あれがいい、これがいい、と選んでいきますが、形になると、これではなかったかな、ああすればよかったな、と後悔や失敗があります。でもその失敗は人から見ると失敗ではなかったりもします。それはビジョンからコンセプトまで筋の通ったデザインを踏まえているから。形の失敗を失敗でなくす為にも、見えないデザインをしっかり考えた上で進めていくことが良いものを作れるのではないかな、と思います。 大淵:学生の皆さんは室内環境学の授業を通して、葉山さんと一緒に「見えないデザイン」を考えた上での「見えるデザイン」として大学の中の居場所を創る経験をしたと思いますが、「ma vie」というこの場所が、学生の皆さん一人一人の軸づくりの場、「私らしさ」の軸を見つける場になっていったらいいなと思いました。 神戸女子大学 家政学部 家政学科講師 大淵 裕美
キャンパス
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2022.4.3
今回はクリエイティブな活動を行う家政学部 家政学科の N さんを紹介します。 市販のものと違い、他にはない個性的なデザインや、こだわりのある商品が見つかるハンド メイド。最近はさまざまなアプリが登場し、WEB 上で販売する人も増えているようです。 今回のシンジョガールもその一人。家政学科被服デザイン科学コースで学び、「halnatsu」と いうハンドメイドブランドでバッグとマスクを販売しています。商品を作るには、ターゲッ トを絞り、他の商品との差別化を図って......と考えることがたくさんありますが、その分、 売れた時の喜びが大きく、大学の授業で学んだこともしっかり役立っているよう。販売を通 して得た学びや経験について、また気になる商品の作り方やアピール方法についてもじっ くり伺いました。 「halnatsu」ならでのは魅力が必要 ――こんにちは! ハンドメイドって温かみがあって、既製品にはない魅力がありますよね。 私も大好きです! 「halnatsu」ではどんなものを販売されているんですか? 今は主にマスクを販売しています。生地の素材、模様、色などを変え、全部で 8~10 種類く らいかな。もう売り切れてしまったけど、前はバッグも売っていたんですよ。うちは、もともと母がよくミシンで縫物をしていて、私もエコバッグのような生活雑貨なら、 以前から自分でほしいものを手作りしていました。アルバイトもずっとハンドメイド雑貨 のお店で働いていたので、いろんな作家さんと出会う機会があって。お話を聞いているうち に、「私も一度、人にお金を払って買ってもらうものを作ってみたい」と思うようになった んです。 ――minne などの販売アプリを見ると、可愛いハンドメイド雑貨がたくさん販売されていま すよね。 私も今回 minne で販売したんですが、よく見ると出品者のなかにはショッピングセンター で販売されるプロの作家さんもいて、「あ、この人たちと競っても技術面で負けてしまうな」 と思ったんです。だから、もっと「halnatsu」ならでのは魅力はないか? と考えるようにな りました。 ――差別化ってやつですね? はい。それで、高校生くらいの若い世代にターゲットを絞り、手軽な価格設定にしたんです。 例えばマスクだと、minne では 2,000 円くらいのものが多く、高いものだと 3,000 円くらい するのですが、私はコストを抑え、送料込みで 850~900 円にしました。バックも 1,800 円 くらい。前から欲しっかったものが、「この価格なら買える!」と感じてもらえれば、購入 につながると思いました。 ――他にも工夫したことってあるんですか? やっぱりデザイン面ですね。正面部分の生地を光沢のあるサテンにしたり、花が刺繍された ものにしたり、いろんな生地を選びました。あと、アプリ内をよく見ていると、ハンドメイ ドのマスクって、三角形の布を 2 枚縫い合わせて作る立体タイプが多く、不織布マスクの ように一枚の布をプリーツ状にしたものって少ないんです。私自身はプリーツ状のが好き なので、「数は少なくても私と同じ人はいるはず!」と、あえてニッチなプリーツ状を作っ て販売しました。 他にも、耳にかける紐の部分をカラフルなリボンにしたものも。女性の中には、「コロナ禍 になって以降、マスクを着用すると、ゴムの部分がピアスやイヤリングにひっかかってしま うから付けなくなった」って人が結構いるんですよ。でも、耳の部分を長めのリボンにする と、ピアスやイヤリングをつけなくても華やかな印象になるので提案しています。周りの友 達の意見も参考にしながら、いろんなデザインを考案しました。 初めて商品が売れた時の感動。「売れることもあるんや!」 ――なるほど! 結構しっかり作戦が練られているんですね。 3 回生の時に、ファッションビジネス論といって、数人のグループで仮想ブランドを立ち上 げる授業があったんです。ブランドコンセプトを決めて、どんな商品を提供するか、コスト 面はどうするか全部自分たちで考えて、分担しながら作業を進めました。その経験が今回、 結構良い参考になっています。 ――授業で学んだことをさっそく実生活に役立てていてすごい! でも、minne で販売するだ けではなかなかお客さんの目に留まりにくいと思うんですが......。どのように知ってもらっ たんですか? 商品をいろんな人に知ってもらいたかったので、「minne」だけでなく Instagram でも情報 発信しました。あと、検索でも見つけてもらえるようハッシュタグをたくさんつけました。#ピンクベージ ュと商品の特徴を書いたり、商品を着用したコーディネート画像を載せて、#花柄コーデと 記載したり。雑貨店でアルバイトしていた時、新しい作家さんを探す仕事があって、その時 もよくハッシュタグを使って検索していたから、きっとみんなも同じことをするだろうな と思ったんです。 ――あ、それ分かる! ショップやカフェを探す時も SNS のハッシュタグで検索することが 多いですもんね。 そうそう。あと写真を撮影するのも工夫があって、商品を窓際に置いて自然光の中で撮ると 商品がきれいに仕上がるんですよ。周囲に花を飾ったらハンドメイドの優しい雰囲気が出 るし、コーディネート画像を撮影するときも、屋外で撮ることが多かったです。 ――商品作りだけでなく、SNS の投稿にも「売れるためのヒント」がたくさん詰まっていま すね。実は私も販売アプリを使っているんですが、全然売れなくて......。今のお話、さっそく マネさせてもらいます!実際に商品が売れたら、相当嬉しいものでしょう? はい、実際に売れた時は本当にビックリしました。「売れることもあるんや!」って。もと もと手頃な価格設定にしているのでたいした利益ではないんですが、それでもお金を払っ て買ってもらえたことが嬉しくて。「売れるということは需要があるんだ!」ってますます やる気が湧き、いろんなバージョンのマスクを作るようになりました。 ――「売れることもあるんや!」って(笑)かなり驚かれたんですね。それ以降も販売されて いると思いますが、お客さんはどんな方が多いんですか? 最初は高校生くらいをターゲットにしていたんですが、購入後のメッセージのやり取りを 見ていると、落ち着いた雰囲気なので 20 代以上の大人の女性が多いと思います。 販売を通して得た、一番大切なもの ――メッセージって、購入後の簡単なやりとりがあるんですか? そうなんです、購入ボタンを押すだけで商品を購入できるのに、わざわざ「すごくかわいい 商品なので到着を楽しみにしています」とか、マスクが届いた後も「次のお出かけの時に付 けていくのが楽しみです!」ってメッセージをくださるんです。コロナ禍で人と会う機会が 減っている時だったから、余計に嬉しくって。 だから私も、「せっかく出会った人だから、一人ひとりとのつながりを大切にしたい」と思 い、商品の発送時にはカードに一言お礼を書いて同封することにしているんです。自分が他 の人から購入した時も、メッセージカードが一緒に届いて温かい気持ちになったことがあ るから。 ――ネット上で、顔の見えない関係ではありますが、心の繋がりを感じることができると嬉 しいですね。実際に作ってみて、やっぱり趣味で作るのとは違いますか? はい、意識が違います。自分がほしいもの、じゃなくて、ユーザーがどういうものを求めて いるかってことを常に考えています。 ――「halnatsu」というブランドを通して、どんどん成長されていますね。今後はどんなこと を考えているんですか? 今、思っているのは存在感のあるヘアバンドです。この間、自分用にハンドメイドのヘアバ ンドを探していたんですが、4,000 円と結構高くて。コストを抑えたいから自分で作ってみ ようと思っていて、それをベースにデザインを変え、販売用にバリエーションを増やせたら いいですね。 あとは、巾着型のバッグ。最近、ショップのノベルティーのような小型の巾着を持っている 人をよく見かけるから、結構欲しい人もいると思うんです。巾着なら、サイズを変えていろ いろ展開しやすいし。 だけど、「たくさん売りたい」とか「これを本業にしたい」というわけではなくて、お客さ んとのやりとりを大切にしていくことが一番かな。そのためにはやっぱり「欲しい!」と感 じてもらえる商品がないといけないので、少しずつ種類を増やし、みんなに興味を持っても らえるブランドにしていきたいなと思っています。